『犯罪』

『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ著、酒寄進一・訳(東京創元社)

【あらすじ】
 短篇集です。
 詳しくはここ→http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20110627/1309160269 とか。
 もっと詳しくは→http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20110628/1309212780 とか。
 リンクだけの手抜き? いえいえ、担当編集者氏みずからのご紹介がとてもとても熱いので、今回はぜひそちらをご覧いただきたいのです。「夜中に勢いだけで書いたラブレター」だそうです。

 でもね……ほんとは予備知識なく、まずは一篇めを読んでみるっていうのがいちばんいいかも。
 そんなわけで、以下のワタクシの感想も(ネタバレはしませんけれど)読後に読まれたほうがいいかもしれません。

               ☆

 ええと。個人的には《ミステリーズ!》に先に短篇がふたつ載ると知ったときからずっと気になっていて。読んだのは単行本になってからなんですが、やっぱりすごく好きだったので猛プッシュしたいところ。しかし何から書いたらよいのやら。

 何が好きって、まずは文章。
 ただ虚心に事実のみを積みあげるかのような、ストイックなスタイル。
 こういうのが読みたかった! と小躍り。もっといえば、こういうのが訳したい……。
 そしてその淡々とした語りから浮かびあがるのは、気高かったり、反対にだらしなかったり、あるいはニューロティックだったりする人間の、「個」としての姿。あくまでも「個」であって、なかなかつながろうとしないところはひとつのキーなのだと思う。

 キーといえば、リンゴもそう。絵だけの登場も合わせ、なんどもでてくる。「フェーナー氏」「チェロ」「緑」「棘」「愛情」「エチオピアの男」…(途中まであまり気をつけてなかったので、まだあるかも)。キリスト教的罪が連想されるのはもちろんのこと、あとは……白雪姫の毒リンゴとか? ほかにも何かないかなー、とぼんやり考えたり。そうそう、「へえ~、ドイツ語ではそれをリンゴと表現するんだ」なんていうのもありました。

 それから、司法に対する著者の真摯な姿勢が好ましい。
 あ、シーラッハさんは高名な刑事弁護士だそうです。
 真ん中あたり、「サマータイム」「正当防衛」くらいから裁判周辺の話が出てくるようになるんですが、そこで垣間見える司法関係者のプロとしての自負のようなものが、読んでて小気味よいのです。

 あとは、そう、配置が巧すぎませんか、これ。「フェーナー氏」で始めて「エチオピアの男」で終わるって、これはやられるわ。短篇集は並びも大事なのだなとつくづく。CDの曲の並びみたいなものですね。

 そして「チェロ」でテレーザが読んでいたのがあの本ってとこがひどく切ない、とか、「棘」に出てくる彫刻の画像をググったらあまりにも思ったとおりの格好だったので笑った、とか、そういうこまかいことをいいだしたらキリがないので、それはまたいずれ。

               ☆

 優秀な弁護士としてさまざまな事例に精通している著者だからこそこんなふうに人間が描けるんだろうなあ、と感嘆のため息。叩けばまだまだホコリがでそう(違)、いやいや、面白い話を書いてくれそう、と思ったら本国ではもう第二集もでている模様です。訳者さんは長篇をひとつ訳了されたらこの第二短篇集にかかるとか。刊行が待ち遠しいです。(高山真由美)


犯罪
東京創元社
フェルディナント・フォン・シーラッハ

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この記事へのコメント

高橋知子
2011年06月29日 13:29
こういう作品、わたし、きっと好きだよなと思って、読む本リストの上位に入れてあります。来週くらいには読めるかなあ。
今年も良作が多いよね。せっせと読まねば。
高山
2011年06月29日 14:58
うん、ともちゃんきっと好きだと思うよ。
せっせと読まねばと思う反面、やっぱり好きなものをじっくり楽しまにゃー、とも思うきょうこのごろ。
わたしはこれ、一日一篇ずつちびちび読みました。
小林さゆり
2011年07月01日 09:57
なんだかとっても心惹かれるわ~。
さっそく本屋へ走らねば

このまえ会合で話題に出た、コナリーの新作を今読んでるんだけど、それが終わったらこれにする
高山
2011年07月01日 13:03
ぜひ。
シンジケートの書評七福神のコーナーもすごいことになっていましたね。
なんだ、みんな好きだったんだ、じゃあもうワタクシごときがプッシュする必要もないか~、とちょっと思いました(あまのじゃく)。
高山
2011年07月03日 23:40
やだ~、「すべての話にリンゴが出てくる」って、ここに書いてあるじゃないですか。
http://www.webmysteries.jp/afterword/page/sakayori1106-2.html
お恥ずかしい。ちゃんとこういうところはチェックしてから記事書くべきでしたー。
高橋知子
2011年07月16日 16:16
一日一篇のちびちび読みで読了。
エッセンスのみを凝縮したという感じでいいですね~。文章が淡々としているから、こちらも淡々と読んでしまうんだけど、どの短篇も読了後に何とも言えない余韻が残ります。簡潔な文章から立ちのぼる、登場人物の我欲とか狂気とか情といったものを、読んでいるあいだ漠然と感じているんだけど、それをラストで焼きごてを押すがごとく明確にされるというか、心をドン!と突かれるというか。〆もうまいなと思います。

一番のお気に入りは「正当防衛」。あと「ハリネズミ」も好き。ハリネズミになってみたいと、ほんの一瞬思ってしまいましたわ。
高山
2011年07月19日 16:08
わたしは狐がいいな(笑)。
これホント人によって好きな短篇がちがって、それもまた面白いのですよ。
わたしはどれがいちばん好きかは、じつはどこにも書いてない。ヒミツ。

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